RIDE HI 2021年 3月号 掲載

「ハンドリングもスタイリングも芸術的。空気の壁を余裕で切り裂く!」(小川)

文 / 根本 健、小川 勤 | 写真 / 折原 弘之 | 協力 / モトコルセ http://www.motocorse.jp/

bimota TESI H2 初試乗

世界限定 250台 / 価格 :866万8,000円

バイクは凄まじい勢いで進化しているが、進化が楽しさに直結するとは限らない。そんな時代にカワサキが出したひとつの答えが、進化と斬新さを合わせたNinja H2だ。川崎重工業の各部門が総力を上げて、いちばん凄いニンジャをつくり出したのである。そのスーパーチャージドエンジンとビモータらしさの象徴であるテージ機構の融合は、新生ビモータ X カワサキの第一弾として必然だった。bimota TESI H2を日本初試乗。

スーパーチャージドエンジンから前後にスイングアームが生える。

ハブステアを簡単に説明すると

ビモータで38年前から開発してきたテージは、前後にスイングアームを持つ独特なフレーム。その前輪で車軸(アクスル)が貫通している部分(ハブ)に、操舵系を内蔵しているのでこの方式をハブステアと呼んでいる。

最大の特徴は、前輪のサスペンションの上下動と減速Gやステア追従が機能として分離されるので、路面追従性や安定性などが大幅に向上。とくにハードブレーキングで前のめりの少ないメリットが知られている。通常のテレスコピックフォークだとブレーキングの減速Gからコーナリングのステア追従まで、上下にスライドする2本の筒が諸々の機能を兼ねているため、荷重などストレスが大きいと動きにくくなる(路面追従性の鈍化)宿命的なデメリットがある。

「ビモータのテージがここまできた! 日本メーカーの力で実現した!」(根本)

「ビモータにカワサキが資本参入する」2019年のミラノショーで発表された衝撃のニュースから1年2ヶ月、ついにビモータ テージ H2の市販車が上陸した。

目の前に現れたテージ H2のオーラは、これまでのビモータを凌駕する。迫力のスタイルはもちろんだが、カーボンパーツのチリ合わせも良く、アルミ削り出しのパーツ群は、ため息が出る美しさ。前後スイングアームの裏側なんて感動のレベルだ。

フロントカウルが大きく見えるのは、ハンドルよりも幅が広いウイングレットを装備しているからだろう。それでも写真で見ていたよりスタイリングはシャープ。フレームはなく、エンジンから前後にスイングアームが伸び、ボディパーツやハンドルなどをマウントするためののステーもエンジンから伸びる。このテージ特有の構造が通常のバイクより低い重心を生み出す。ピボットとステアリングヘッドを結ぶエンジンを抱きかかえるように配置される通常のフレームだと、ブレーキング時にステアリングヘッドに大きな慣性が集中する。加速を支えるのにも剛性は必要だ。だからフレームの重量は重くなるのだ。しかし、テージにはフレームがない。そしてフロントフォークもないため重量以上にハンドリングは軽くなる。さらにテレスコピックのようにピッチングもないが、これはブレーキングでほとんどキャスター&トレールが変化しないことを意味し、さらにリリース時も逆の動きがないことから、常に曲がりやすい姿勢を維持できるのだ。

また、操舵系とサスペンションが切り離されているのもメリット。通常はサスペンションと操舵系は一体で動くため大きな荷重がかかると前輪がどちらかに切れ込もうとしてバランスを崩しやすいが、テージは極端なことをいうと前輪がロックしていてもハンドルが切れ込む感覚が少なく、そんな状況からわずかにブレーキを緩めれば曲がれてしまうのだ。走行しながらこの動きを想像するのは難しいが、ハブセンターステアの前輪の安定感はこうして生まれているのである。ポジションはH2同様かなり前傾がキツい。エンジンはH2そのもの。新車のため様子見しながらペースを上げる。走り出した瞬間から軽快感が強い。まず、驚くのは車体のピッチングのなさと乗り心地の良さ、そして前輪のステアするレスポンスの速さだ。普通のバイクは後輪が傾いてから前輪が遅れて追従してくるが、テージH2は後輪の傾きと同時(もちろん本当は遅れて追従)に前輪が傾くような鋭さがある。さらにリーンが始まってもさらにバイクが曲がりたがるような動きをする。あまりにも重心の低いところで車体がリーンして行くため、僕自身がその動きになかなか上手く対応できなかった。む、難しい… …でも奥が深くて楽しい。スロットルを開けるとスーパーチャージャーならではのフラットな特性が武器になる。スロットル開け始めは少し敏感だが、直進安定性は極めて高い。15分ほど乗って根本に託す。2周目からスロットルは全開だった…。歴代のほぼすべてのテージに乗ってきた根本はテージ乗りが染み付いている。

最初から身体をイン側の低いところに構え、前輪がステアし、リーンしていくに連れてさらに身体を追従させていくような乗り方だ。ライダーが理解してテージのキャラクターを引き出してやるとさらなるポテンシャルを見ることができるのである。そして宮城 光さんが試乗。1周目から全開だった。「キュルルー」エキゾーストノートの他にスーパーチャージャー特有の音がコースに響く。インペラはクランクが1万3000rpmのときステップアップギヤで1.15倍、遊星ギヤで8倍増速され、12万1440rpmと途方もない回転数になる。ストレートでは2速でポンポン前輪が浮いている。「ロール方向の動きは、重量を感じさせない軽さがある。ブレーキングはテレスコピックにない安定性で、外乱吸収性も抜群。大パワーを与えても車体は何も問題ない」と宮城さん。

「バイクの新しい可能性がここにある。テージ史上最高の完成度!」(宮城)

大メーカーのカワサキがマイノリティのビモータと組む。単純に考えると吸収されてしまったように見えるが、カワサキはビモータの個性をとても大切にして、テージ H2を完成させた。新生ビモータがいよいよ本格始動! カワサキには、素晴らしいエンジンがたくさんある!

フロントホイールの中には特殊な形状の巨大なベアリングが入っていて、キャスター&トレールなどの操舵機構はすべてここに収まる。

右側のスイングアームの下側から伸びる黒いロッドがフロントサスのリンク。エンジンが車体の一部であることがよくわかる。

前後スイングアームはアルミ削り出し。センター部分と左右アーム部分は、溶接ではなく接着。フロントのセンター部分はカーボン製だ。

トップブリッジはフロントフォークを支える必要がないため、ハンドルがマウントされているだけのとてもシンプルなつくりとなる。

左側がフロント、右側がリヤサスペンション。サス上部の偏心カムを回すとシート高を変えられる。随所にある独創的な機構が面白い。

川崎重工業の総力が集結したNinja H2のエンジン。998ccで231ps/14.4kg-mを発揮するのはスーパーチャージドエンジンならではだ。

新生ビモータ第1号車であるTESI H2は世界限定250台で販売される。これほどインパクトの大きなバイクは。しばらく登場しないだろう。

メーターはH2のものだが、キーをONにした時とOFFにした時にbimotaのロゴが浮かび上がる。出力モードやトラコンも装備する。

量産には向かないハンドメイド。それは今も変わらない

Specifications :bimota TESI H2

エンジン水冷4ストローク DOHC4バルブ スーパーチャージド並列4気筒
総排気量998cc
ボア x ストローク76 x 55 mm
圧縮比8.5対1
最高出力170kw (231ps) / 11,500rpm
178kw (242ps) / 11,500rpm (ラムエア加圧時)
最大トルク141Nm (14.4kg-m) / 11,000rpm
変速機6速
乾燥重量207kg
キャスター / トレール21.3° / 117mm
サスペンションF=ハブセンターステア
R=スイングアーム + モノショック
ブレーキF=Φ330mm ダブル
R=Φ220mm
タイヤサイズF=120/70ZR17
R=200/55ZR17
全長 / 全幅 / 全高2,074 / 770 / 1,155mm
軸間距離1,455mm
シート高840mm
燃料タンク容量17L

メディア インフォメーション

RIDE HI 2021年 3月号 掲載

『ネクストステージは、どのバイク?』

● Bimota TESI H2初試乗!ビモータのハブセンターステアとカワサキのスーパーチャージドエンジンの技術が融合して、どんなバイクが出来上がったのか、いちはやくインプレ!

● Whats your most fun bike ?

あなたはどこに魅せられますか? 性能追求バイクは目指す頂点が同じでどれも似てしまう。いま続々登場するのは個性派ばかり。しかも最新テクで誰にも楽しめるFUNバイク多数。 「最高速度、最高出力、スペックを追わないFUNがある」

● その他、コンテンツ

・FUN BIKEの先駆者 : DUCATI MONSTER 1200S | ・「軽さ」がすべて | ・トラッドスポーツの伏兵 : BMW F900R | ・肩肘張らないスーパーカフェの贅沢さ : MV AGUSTA SUPERVELOCE 800 | ・伝統の縦置きエンジンを頑なに守り抜く : MOTO GUZZI V7 Stone / Special | ・電子制御が身近なものに |・5つの質問から探る : 好印象&安全な街乗りスタイルの作り方 | ・FUN RIDE はINTとGTで領域が異なる : ROYAL ENFIELD INT650/CONTINENTAL GT650 | ・ROYAL ENFIELDのショールームがオープン | ・トライアンフとの一体感を追求する! : BABY FACE | ・2021年の大本命トラッドスポーツ! : TRIUMPH TRIDENT660 | ・まだまだ戦うライディングをしていたい : BMW M1000RR | ・タイヤが太ければズラした方がラク!...

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